京都発の新鋭ロックバンド Hakubi は、昨年台湾で開催された音楽フェス「JAM JAM ASIA」に出演し、圧巻のライブパフォーマンスで大きな注目を集めた。中でも、ギターボーカル片桐の、内に秘めた脆さを押し殺すかのような力強い歌声は、多くの観客の心を打った。そして今年 6 月 28 日、最新 EP《27》を引っ提げて、台北「SUB LIVE」にて初の台湾単独公演を開催した。
Hakubi は、2021年9月8日にアルバム《era》でメジャーデビュー。代表曲〈夢の続き〉のミュージックビデオは、YouTubeで現在までに350万回以上の再生数を記録している。これまでにアニメ《ハズレ枠の【状態異常スキル】で最強になった俺がすべてを蹂躙するまで》、《ノケモノたちの夜》、ドラマ《青春シンデレラ》など、数々の作品で主題歌を担当してきた。
2024 年 9 月にメンバー脱退を経て、現在はギターボーカルの片桐とベーシストのヤスカワアルによる 2 人体制で活動を継続中。最新作《27》は、新体制となって初めてリリースされた EP 作品でもある。今回の台湾ライブにあわせ、お二人は台湾メディアのインタビューにも応じてくれた。
ーお二人でお互いのことを紹介し合っていただけますか。
片桐:アルは京都生まれ京都育ち、生粋の京都人。あまり多くは語らず、冷静に話を聞いている分析官。なので、時々何を考えているかわからない時もある。表情もあまり変わらないので、少し怖い印象をうける人もいるかもしれませんが、優しいです。そんなアルくんですが、いつも使用しているMOMOSEのベースの裏側には、今まで出演したライブハウスのパスステッカーがぎっしりと貼ってあり、意外な部分に嬉しくなります。
ヤスカワアル:片桐は気遣いが上手い子だなと思います。気遣いという台湾の言葉があれば教えてください。片桐は最近は毒も吐くようになってきたのが将来が楽しみです。
ーメンバー間で最近の共通の話題は何ですか?
片桐:F-1やサッカーなどスポーツの話題が多いです。
ヤスカワアル:F1やサッカーなどスポーツの話題が多いです。半年くらい前に台中市でレッドブルF1のデモ走行が行われていたのをYouTubeで見ていました。台中市長が誘致したイベントとの事で、素晴らしいです。
ー公演前に必ず行っている準備や儀式は何ですか?ライブ後のルーティンとかありますか?
片桐:ストレッチはしていますが、以前行っていたボクシングのスパーリングのような儀式はもうしていません。いつも飲んでいる喉にいい紅茶とビタミンドリンクはステージドリンクにしています。
ヤスカワアル:特にルーティンは決めずにやってきました。タバコは必ず吸います。
ー今年これまでに印象的だったライブや公演はありますか?
片桐:indigo la end 「藍のすべて」。魅入ってしまう、聴き入ってしまうあっという間の時間でした。セットリスト、演出方法、楽曲のアレンジ、グッズにおいても、全てにこだわり尽くされているのが素晴らしかったです。
ヤスカワアル:今年では無いけど、去年の初めての台湾でのライブのインパクトは強いです。国を超えて自分たちの音楽が評価を受けていることに感動しました。
ー昨年、Hakubiは二人体制になりましたが、この変化の中でどのような挑戦に直面しましたか?
片桐:楽曲面でのアプローチの変化、よりオルタナティブに、ルーツに触れることを意識してきました。そして、ライブではサポートギター、サポートドラマーを迎えるので、バンドメンバー以外とのコミュニケーションはすこし大変でした。それは音楽的な会話も、人間的な会話も含め、今までは、メンバー内で言葉にしなくてもOKだった部分も大きかったので、感覚的な部分を言語化したり、楽曲の意味合いなども伝えることがあまりなかったからでした。本当に素晴らしいサポートメンバーと巡り会えたので、毎回のリハーサル、ライブが刺激になり、より音楽に向き合った感覚はありました。
ヤスカワアル:なにかを選択する場面では二人で活動している分、意思決定のフローがシンプルになったことはいい事でした。ライブに間に合わせるため、色んなサポートミュージシャンの方と毎日と言っていいほどスタジオに入ってた時期があるのですが、それは体力的にしんどかったですね。
ーHakubi は 5 月に EP《27》をリリースしたばかりですが、EP のリリース資料には「27」を英語の発音を基準に表記しているそうですが、何かこだわりがありますか?
片桐:今まで、「17」「22」という曲を出してきたのですが、どれも日本語読みで、そのシリーズから変えたかったので、「27」は英語の発音にしました。今までと違うよ、と言うのを伝えたかったのと、日本だけでなく世界に届いて欲しいという思いもあります。
ー以前、心の奥底でずっと 27 歳を「人生の期限」だと感じていると言っていましたが、なぜ27歳なのでしょうか?27歳が終わる前に、心の中で最も後悔していること、どうしても手放せないものは何ですか?
片桐:名だたるロックスターが亡くなった 27 CLUBをイメージしていました。その頃までに彼らはスターになっている。自分もその年には人生をやめてもいいくらいの人間になっていたい、と想っていたので 27 才が期限だと想っていました。心の中で後悔していることは、祖母に私がライブをやっている姿を見せられなかったこと。大きなステージに上がるまで呼ばないと決めていたので、呼ぶことができなかった。手放せないものは、片桐という私が生み出した音楽をやっている私と、日常生活を生きているわたしという存在。
ー28 歳になった今、考えにどのような変化がありますか?
片桐:EPをつく理終わって、もっとたくさんやりたいことがある!やれることがある!と思うことができたので、なんだか28才になって、新しい自分になれた感覚はあります。
ー実は、台湾では「9のつく年は試練の年」と言われますが、29歳に近づいて運が悪くなることを心配していますか?
片桐:29歳が試練の年なのですね!初めて知りました。私はあまり気にしていません。27歳が自分にとって試練の年だったと思うので、それは乗り切れたな。という感覚です。
ヤスカワアル:日本でも年齢によってそのような考え方があるのですが、キリが無いのでなにも考えないようにしています
ー〈2025〉という曲のインスピレーションは、自分を取り戻した瞬間から来ているそうですが、具体的には生活や思考のパターンにどのような変化がありましたか?
片桐:北海道にMV撮影に行ったのですが、その時は、いろいろなしがらみや不安に押しつぶされそうになっていました。自分を大事にできていなかったと思います。そんなときに、たくさんの雪の中にからだを沈めていたら自然と全て手放してしまっていいんだと思えました。その時はとても楽だったけれど、ふと我に帰って、今自分が辛さを手放してしまったら、やりたいことや 、やってきたことを捨ててしまうことになるから、好きなことをやるために、向き合おうと思うことができました。それは自分の中の変化でした。
ー多くのファンも同じようにさまざまなことで息苦しさを感じていると思いますが、ご自身のストレス調整方法を教えていただけますか?
片桐:私自身、ストレスの調整方法はいまだにわかっていません・・・。なのでこれがいいよ!とかはうまく伝えられないのですが、最近になって人に自分の辛さを話せることが増えて少し楽になった気がしています。子供の頃は、人に悩みを聞いてもらうことがうまくできずに、抱え込んでしまっていたのですが、うまく話せなくても、聞いてくれる人がいることで、自分も話しながらつまずきに気づけたりして少し楽になった気がします。
ヤスカワアル:好きなことに没頭するor没頭できることを作る、ですかね。僕はモータースポーツが好きなのでレースを見ている瞬間は全て忘れる事ができます。でも自分も円形脱毛症になったりしているので、結局のところ、根本的解決が一番効果的ですね。
ー新曲〈2025〉に話を戻しますが、この曲はBLドラマ《被写界深度》の主題歌ですが、ドラマはご覧になりましたか?作中のキャラクターのように、異なるタイプの人に惹かれたり、インスピレーションを受けたりしますか?
片桐:します。自分にはこうなれないという人には惹かれるし、嫉妬します。
ー〈2025〉のMVはiPhoneで撮影されていますが、なぜこのアイデアを思いついたのですか?
ヤスカワアル:フィルムルックでの撮影を検討しているときにiPhoneが一番効率的だな、みたいな会話があったはずです。
ー今回の新曲制作には前回の台湾公演の経験がインスピレーションの一部になっていると伺いましたが、台湾での出来事の中で特に印象深かったエピソードや、それが曲に反映されたものはありますか?
片桐:先ほど触れた〈2025〉という曲には、昨年初めて台湾を訪れた際に受けたインスピレーションが込められています。その後、おじいちゃんの歴史を知るための旅として嘉義を訪れ、〈何者〉という曲を書きました。これは今回の台湾公演で弾き語りした楽曲でもあります。嘉義でみた夕日、台湾のいろいろなところを駆け抜けるスクーター、いろいろな場面を思い出して書きました。印象ぶかかった思い出としては嘉義大学で、私の祖父の書類を合計二時間くらい探してくれた方々がいたことでしょうか。優しくしてくれる台湾の人たちが、遠く離れていたとしても、私が直接幸せを分け与えることができなくても、どうか幸せでいて欲しい。という願いも込められています。
ー台湾にはどんな印象をお持ちですか?台湾のファンの方々について、何か印象深いエピソードや特に記憶に残ったことなどがありましたら、教えていただけますか?
片桐:みんな優しいし、とてもフレンドリー。そして元気。
ヤスカワアル:もはや Hakubi のインスタのリール動画のコメント欄は台湾の人しかいないんじゃ無いかと思うくらい熱が伝わってきて嬉しいですよ。
ー前回台湾でライブした際、心に迷いや不安があるとおっしゃっていました。あれから一年、再びこの地に立っている今、皆さんの心境や状態はどのように変化しましたか?
片桐:メンバー脱退後、すぐという自分自身の心のざわつき以外には、言葉の壁を感じていた部分はあったのですが、みなさんの笑顔を観たら吹き飛びました。あの日はとても幸せな時間だったので、不安や迷いはありません。楽しみです。
ヤスカワアル:今も何かしら悩み事はある筈です。何かをクリアしたらまた大きい問題が出てくる、みたいな繰り返しです。
ー今回再び台湾に来るにあたって、ライブ以外に特にやりたいことや、もう一度感じたい・出会いたい瞬間はありますか?
片桐:私は猫が大好きで、昨年台湾でライブをしたとき、朝に街を散歩していたらたくさんの猫に出会いました。今回もたくさんの猫に出会えたらいいなと思っています。台湾には「猴硐」という猫の町があると聞いていて、そこにもぜひ行ってみたいです。そして、嘉義にもう一度行きたいです。というか何度も行きたい。台湾のいろいろなところを巡りたい。台湾の友達を増やしたい。
ヤスカワアル:1人であまり行動できていないので、1人散策はやってみたいです。雰囲気の良いサウナとかあれば行ってみたいですね。
ー台湾でやってみたいことや挑戦したいことがありましたら教えてください。
片桐:台湾のアーティストの方の楽曲がとても素敵なので、いつかコラボレーションして、台湾の言葉でも歌を歌いたい。台湾と日本をつなぎたい。
ー京都発のバンドということで、地元の穴場グルメや隠れたおすすめスポットがあれば、ぜひ教えてください。(岐阜でもOK)
片桐:京都だと、私が大学時代住んでいた「山科」という地方にある「醍醐寺」という御寺は、桜が有名な場所で歴史的にも有名な場所なのでおすすめです。そして、その近くにある「勧修寺」は、本当に行く人が少ないスポットです。梅雨の季節になると、紫陽花が綺麗なのでおすすめです。岐阜県だと、私の故郷「郡上市」にはお盆の時期になると夜8時から次の日の5時ごろまで盆踊りを踊り続ける、と言うクレイジーで、でも趣のある「郡上踊り」「白鳥踊り」というものがあります。私の故郷は、川が綺麗でなので観光にもおすすめです。
ヤスカワアル:kamo River で chill しましょう!
ー最後に、ファンへのメッセージをお願いします。
片桐:私が昨年、台湾に初めてきた時はメンバー脱退の件もあり心がざわざわとしていた時でした。そんな心を吹き飛ばして、幸せに変えてくれたのは台湾のみなさんの温かさでした。本当に感謝していますし、台湾のことが大好きになりました。またライブで来れて嬉しいですし、台湾に行った時に想ったことを書いた楽曲を作ることができて嬉しいです。リリースされる時まで楽しみにしていてください。
ヤスカワアル:海を超えて、台湾の皆さんの Hakubi に対する情熱を受け取っています。いつも力になっています。アリガトウ。
Hakubi HP:https://hakubikyoto.com/
Hakubi X(twitter):https://twitter.com/hakubi_info
PHOTO:柏辰