MeMeOn Musicが2周年を迎える際、寫眞館ゼラチン 初海外個展「温度」を行った。寫眞館ゼラチン は雑誌KERAや有村竜太朗(Plastic Tree)、cali≠gari、京(DIR EN GREY/ sukekiyo)……様々なバンドの写真等のカメラマンとして有名。
フィルムでの撮影、暗室での焼き付け、独特の風合いを持つモノクロの奥深い色でファンを魅了。モノクロの作品に相対して、カラフルな服装をしている寫眞館ゼラチンはとても優しく、面白い先生だ。25年以上写真を続けてきた背景には、どのような出会いがあったのか…幅広くお話をいただいた。
好きなこと、好きな人全部繋がってる
ー写真をやるきっかけは辻沙織さんですが、自分らしさを見つけたきっかけはなんですか。
昔から絵を描いたり、工作したり美術は好きでしたけど、私自身の表現というものが無くてとりあえず描いたり、作る事が好きでした。
でも、高校生の時に初めて辻沙織さんの写真展を観て、「私がやりたいのは写真だ!」って思っちゃったんです(笑)カメラのことなんて全然知らないのに、その強い気持ちだけで専門学校に入って勉強しました(笑)
自分の表現したい世界観を見つけたのは、学生の時に本屋でDeborah Turbevilleの「過去を恋する女たち」という写真集を見た時です。この写真集にはモノクロとカラー写真の両方あったんですけど、当時勉強していたのがモノクロだったので直ぐに自分の作品に取り入れはじめました。
ーモノクロの写真を撮る時と、視点はカラーと違いますか。
違うかもしれません。モノクロを撮る時は、建物などに自然にできた古い傷だったり、経年劣化を感じるものに惹かれてシャッターを切るけど、カラー写真にはまだ自分の出したい色や惹かれるものがまだ見えないので探しているところです。好きなものは繋がると思います。写真の世界観に影響を受けたDeborah Turbevilleの写真集に写っていた螺旋階段を見た時に、私の敬愛する漫画家、楠本まきさんの世界にも通じるものがあり、ああこうやって好きなものは繋がっていくんだなと思いました。
「風景は人と同じくらいの表情がある」
ー寫真館ゼラチンさんが大好きな楠本まきさんの《KISSxxxx》を持ってきましたよ。
わー(笑)もう私の人生のバイブルです(笑)楠本まきさんの絵の中には憧れの世界が全部詰まってます(笑)
ーこの中で一番好きなキャラクターは誰ですか?
カノンですね(笑)現実にいないのに、現実にいそうな人。
当時は《KISSxxxx》に出てくるような雰囲気のあるバンドとか結構いましたね。まきさんの描く世界に影響受けた人は多かったと思います。現実と非現実との合間を感じる事ができるんです。
ーだからいまも現実にあるけど現実にない感じの写真を撮ってますよね。
ありがとうございます。現実と非現実の間を撮るのが好きなので、報道写真のようなリアリティーのある写真は撮らないですね。風景を撮る場合も非現実的な世界にする為に、人や現実的な看板はなるべく入れないようして撮るように気をつけています。
ーでも昔はよく人を撮ってましたよね?
当時は、友達をモデルによく撮影をしていました。人物を撮る時は、髪型、衣装、メイクから全て非現実の世界観を作り上げる事をよくしていました。なので、公園や海で楽しそうにしている人達を撮るような写真には興味は無かったですね(笑)
ーだから化粧や独特な世界を作るヴィジュアル系のバンドを撮っているのですか?
ヴィジュアル系の方を撮影していたのは当時、自分のいた環境も関係しています。お手伝いをしていたバンドさんから、そのお友達のバンドさんへ、そしてまたお友達へと繋がった事が大きく関係していますが、撮影をした事があるバンドさんはとても少ないんです。撮影させていただいた皆さんが活躍されているおかげで、私の名前も知ってもらえたんでしょう。このような繋がりがあるからこそ、いまの私があるので感謝の気持ちでいっぱいです。
ー楠本さんと初対面の時、想像した印象とは一緒ですか?
お会いした時のことは緊張してあまり覚えていませんが(笑)そのまま「KISSxxxx」の世界にいる人だなと思いました。物語の中に登場する人物それぞれにまきさんが見えるような感じがしました。
ー自分の作品には性格が出ると思いますか。
出ていると思います。
作品自体は私だと思います。
私、暗いんです(笑)。
お客さんに会う時、不思議な気持ちが浮かんでくる
ーそして、ZI:KILLのCDも持ってきましたよ!
うわー(笑)
ーでもいま写真館ゼラチンさんの仕事もこの世界にいる人と繋がってるとは思います。
ありがとうございます嬉しいです(笑)知ったきっかけはZI:KILLのジャケット「真世界〜REAL OF THE WORLD〜」がかっこよくて。写真にもまだ興味が無かった高校生の時、「女の人がジャケット!?」ということに素直に驚きました(笑)当時のアルバムジャケットはメンバー写真が主流だったので余計に。
辻沙織さんが撮影されたことは後で知りましたけど、毎度雑誌でかっこいいなと思う写真を見つけるといつも辻さんの名前がクレジットされていました。
ーいまは雑誌に自分の名前が載せたのをみて、どんな感じがしますか。
不思議な気持ちです(笑)。その雑誌を通して寫眞館ゼラチンの存在を知ってもらうって、高校生の時に私が辻沙織さんに対して感じた気持ちと同じなんだと思うと。
ー今回の個展にも昔からずっと写真館ゼラチンの作品が好きな方がけっこういます。しかも日本からも何人も来たんで、どんな気持ちですか。
ビックリしました(笑)でもすごく嬉しかったです。私には(海外まで)来てもらうほどの力はあると思わなかったので。
ー長くやってきて、諦めるなんて一度も思わないですか?
諦めると言うよりは、(写真以外の)仕事と作家活動を一緒にすることができなかったので、仕事に専念するなら写真を辞める、写真に専念するなら仕事を辞める、という感じです。
ライブと一緒、その場しか見えない写真
ーMeMeOn Musicの読者にメッセージを願いします。
写真はスマホやパソコンの画面だけではなく、直接会場などで紙(印画紙)に焼かれたものを見ていただきたいです。
音楽が好きな人はライブと同じで、開催される展示も期間が過ぎればもう観る事ができなくなります。生の作品はその時しか見られないので、機会がある限り、ぜひ作品に触れて欲しいです。
写真:MeMeOn Music