友成空の〈鬼ノ宴〉が最近様々の音楽チャートにランクイン。鬼の宴に迷い込んでしまったような、恐怖感とリズム感のある楽曲で構成され、日本の伝統芸能と融合し、生きることへの欲望を歌い上げる。 作詞、作曲、編曲だけでなく、イラストレーションも一人で手がけ、21歳の目線で次世代音楽の魅力を伝える。今回、彼をインタビューに招き、彼の音楽や今後の展望を語ってもらった。
ーまず、アーティスト名の由来はなんでしょうか。
聴いている人と友達になれるような、そして空のように様々な色を見せるような音楽をしたいという思いがあります。小さな頃からお世話になっている方に、つけていただいた第二の名前です。
ーどんな音楽に影響を受けてきたんですか?音楽活動を始めたきっかけを教えてください。
父親の影響で、小さな頃から日本の昭和ポップスやブラックミュージックをよく聞いていました。10 代の頃は、洋楽のチャート曲やボーカロイド曲を聴くのも好きでした。コロナの時期に、ふと思い立って事務所にデモテープを送ったことが、本格的に音楽活動を始めるきっかけになりました。
ーオリジナル曲を作ろうと思ったきっかけはなんですか。
10 歳ごろから、古いキーボードを使ってインスト曲の作曲をしていました。高校2年のとき、友人たちと海辺で朝日を見たのですが、そのときの思い出や気持ちを歌にして残しておきたいと思ったので、作詞と歌唱をはじめました。
ーギターやベースだけでなく、キーボードやトランペットなど複数の楽器を曲に使っています。普段、作詞作曲はどのように進めていますか?
まず曲から作ることが多いです。お風呂に入っているときにふとメロディーが浮かぶこともあれば、パソコンや鍵盤の前で色々と試しながらトラックを先に作ることもあります。音色の1つ1つに、風景や温度などのイメージを込めてアレンジしています。歌詞は、部屋をぐるぐる歩き回ったり、電車に乗ったりしているときに思いつくことが多いです。
ー〈鬼ノ宴〉は台湾でも人気です。他の曲が明るめなのに対し、〈鬼ノ宴〉は重めで、ジャケットも他の曲のように写真ではなく、絵になっています。この曲のインスピレーションはどこから来たのですか?
この曲は、ベースのリフから作りはじめました。もともとはシックなR&B調の曲でしたが、「鬼」というテーマが浮かんだので、より日本らしさを出したスタイルに方向転換したんです。ジャケットだけでなく、歌詞や曲調に関しても、浮世絵や花札などの日本美術から多くのインスピレーションを得ました。また、2番の「アイヤイヤ〜」の部分は、盆踊りの和太鼓のリズムを取り入れています。
ー〈鬼ノ宴〉のジャケットや他の曲のジャケットに使用された写真はすべて自分の手掛けたものですか?気になるイラストレーターはいますか?ビジュアルにこだわりはありますか?
〈コーヒー〉〈グッドモーニング〉、EP《18》のジャケットは僕が描きました。〈鬼ノ宴〉のジャケットは、生成 AI にプロンプトを打ち込んで作成しました。レーベル内でも初の試みだったそうです。 AI の絵は、人間の絵と違って「意図」や「意識」が感じられない不気味さがあるので、この曲のテーマにピッタリだと思ったんです。
イラストレーターだと、以前から高妍さんの作品が好きで、よく拝見しています。僕は村上春樹やはっぴぃえんども好きで、彼らの表現する「日本の原風景」のようなものとも親和性の高い高妍さんの丁寧な画風が大好きです。いつかご一緒できないかなあと、勝手に思っています…笑
ー〈鬼ノ宴〉のヒットによって何か変化したことがあれば、教えてください。また、これらの経験は新曲〈I LOVE ME!〉のテーマと何か関係があるのですか?〈I LOVE ME!〉の制作背景について聞かせてください。
〈鬼ノ宴〉は、自分にとって大きな転機となりました。多くの方に自分の曲を楽しんでもらえているのは本当に嬉しくて、それが自分にとって最大のエネルギーにもなっています。また、今まで自分で決めつけていた「自分らしさ」の枠を出て、より自由に曲を作ってみようと思うようになりました。こういった「自分をもっと解放しよう」というメッセージは、〈鬼ノ宴〉と〈I LOVE ME!〉に共通した要素です。最新曲の〈I LOVE ME!〉は、そうしたメッセージを、よりストレートに歌った曲です。見た目や年齢、性別や価値観など、自分自身について悩む人が、「戦う勇気」を持てたらいいと思って作りました。多様性に関してアジアの最先端を行く台湾の方々には、どう聞こえるのでしょうか。ぜひ聴いてみてください。
ー今年 1st Live「雨のち空」が開催されました。友成空さんにとってはどんなライブになりましたか?
ステージに上がってすぐ、まず「生きていてよかった」と思いました。日々SNSで応援のメッセージやコメントをいただくたびに僕は嬉しく思いますが、今回、応援してくださたくさんの方々を目の前にして、涙が出そうになりました。同時に、自分で舞台を作り上げることの難しさも痛感しました。今後のワンマンライブでは、コース料理のように、彩り豊かで、美しい流れのあるライブをしたいです。また、これは音楽活動を始めた時からの目標ですが、いつかは台湾にもライブをしに行きたいです。
ー「空」という言葉が好きなようで、名前にも 1st Live のタイトルにも使っています。また、ジャケットやツイッターのバナーにも空の写真が使われています。空にはどんな魅力があると思いますか?
時とともに様々な表情を見せる天空は、まるで人の心のようだと思います。表情豊かだけど、見上げればいつもそこに在るような、まさに「空」のような音楽を作れたらいいと、僕は思っています。中国語では、「からっぽ/空き時間」という意味もありますよね。もちろん中身のある音楽を作りたいですが、どんな物事も受け入れて自分の糧にできるような、いい意味で「からっぽ」な人でありたいと思っています。仏教では「中間」や「両面性」のような意味も含むといいます。ちょうど夕焼け空のグラデーションのように、0と1、あるいは白と黒だけでは表せない、生きることの醍醐味を、「空」という字は表しているのかもしれないと思います。
ー将来、どんなアーティストになりたいですか?最近特に気に入っているアーティストはいますか?
今と同じように、これからも音楽と人を愛するアーティストでいたいです。そして、時代や国籍を超えて愛されるようなものを作りたいです。少し前に、大好きな大貫妙子さんのライブへ行きました。彼女の上品な歌声から、豊かな情景と感情が伝わってきました。僕は、その時々の風向きを見ながら柔軟に人生を歩みたいと思っていますが、私が彼女と同じ歳になったらあんな演奏をしたいと、今は密かに思っています。最近は、日本の BLACK BERRY TIMES というバンドや、イギリスの Sam Wills というアーティスト、また Zion.T など韓国の R&B を気に入って、よく聞いています。
ー台湾のファンにメッセージをお願い致します。
→台湾の風土や文化、食べ物、そして人々の温かい雰囲気が大好きです。台北には一度だけ行ったことがあり、そこは僕にとって本当に居心地の良い場所でした。僕には、きっと何か台湾とのご縁があるはずだと勝手に思っています。いつか台湾でライブをする日のために、中国語を数年間勉強中です(能力はまだまだですが…)。ぜひ僕の曲を聴いてみてください。皆様と会える日を楽しみにしています!
友成空 SNS
文:迷迷音 MeMeON Music
写真:avex